目次
今年に入り、「中国本土の住民は香港の銀行口座を開設できなくなった」という噂が広まっていますが、これは正確ではありません。香港金融管理局(HKMA)が5月22日に発出した通達はあくまで「投資口座」を規制対象としたものであり、預金、送金、カード決済などに使う一般の普通預金口座は対象外です。銀行の公式サイトおよび金融当局の一次情報をもとに、実際の口座開設手順と銀行の選び方を整理しました。初めて香港口座を作る方は、この通りに準備すればスムーズに進められます。
まずは噂の真相を正しく理解する
5月22日、香港金融管理局(HKMA)はすべての銀行に向けて通達を出し、本土の個人投資家向け投資口座に対して以下の3つの措置を追加しました。
- 2023年1月以降に疑わしい書類や偽造書類で開設された投資口座を遡及調査し、強制解約すること
- 資産残高がなく、12か月間取引のない休眠投資口座を閉鎖すること
- 新規の投資口座開設にあたり、資金が本土外の合法的な出所である旨の書面声明を義務付けること

HKMAの報道向け資料にも明記されている通り、これらの措置はあくまで「投資口座」にのみ適用され、一般的な普通預金、定期預金、決済機能は規制の対象外です。6月6日にもHKMAは公式に声明を出し、本土の顧客からの口座開設申請は継続して受け付けられており、全体として順調に運用されていると発表しています。
実際に変化したのは「維持コスト」と「審査の厳格化」です。例えばHSBCは2026年1月1日以降、香港ID非保持者の新規開設口座に対して低残高維持手数料を導入しました(HSBC One口座で過去3か月の平均資産総額が1万香港ドル未満の場合、毎月100香港ドルが引き落とされます)。また、中信銀行国際(CNCBI)は昨年8月に本土住民向けのオンライン開設を停止し、窓口予約のみに変更しました。
最初の1行はどこを選ぶべきか?
私のおすすめは、「月額維持費が無料」で「スマートフォンから即座に開設できる」銀行を最初に選ぶことです。
1. 衆安銀行(ZA Bank)
香港初の仮想銀行(ネット銀行)です。最低預金残高の縛りがなく、香港住民だけでなく香港に滞在中の旅行者でもオンラインで口座開設できます。必要書類が揃っていれば最短2分で完了します。1つの口座で香港ドル、人民元、米ドル、日本円など11種類の通貨を管理でき、Apple PayやGoogle Payに対応したVisaデビットカードが発行されます。

2. 中国銀行香港(BOCHK)
公式アプリから口座開設が可能です。公式ガイドにも本土住民身分証保持者向けの要件が明記されています。2019年8月1日より総合資産管理サービスの月額手数料および中銀カードの年会費が全面無料化されており、アプリでの普通預金口座開設であれば住所証明書類のアップロードも不要です。

知名度では「HSBC One」が最も高いですが、現在の規定では残高が1万香港ドル未満だと年間1,200香港ドル(約24,000円)の手数料が引かれてしまうため、最初の1行としてはあまりおすすめできません。

出発前に用意すべき6つのアイテム
- 中国本土の住民身分証
- 往来港澳通行証(申請当日に有効なビザ/渡航許可があること。申請日から30日以上の有効期限が残っていることが条件)
- 中国本土の携帯電話番号(事前に香港ローミングを開通させ、香港現地でSMSを受信できる状態にしておくこと)
- 中国本土の銀行キャッシュカード(登録電話番号が開設申請用番号と一致していること。ZA Bankで必要)
- メールアドレスと本土の現住所
- 納税者番号(本土の税務居住者の場合は身分証番号)
香港へ向かう前に、ZA Bank と BOCHK の両アプリをスマホにインストールしておきましょう。
香港到着後の具体的な手順
ステップ1:イミグレーション通過
港澳通行証を使って香港に入境します。両行とも公式要件として「申請時に香港国内に滞在していること」が必須条件となっています。入境審査の際に渡される小さな紙片(入境スリップ/Landing Slip)は、万が一窓口に行くことになった場合に備えて大切に保管してください。
ステップ2:出入境記録のダウンロード
中国銀行香港(BOCHK)では、国家移民管理局が発行した電子出入境記録(申請日を含む直近7日以内に発行されたもの)の提出が求められます。国家移民管理局の公式ミニプログラムから申請・取得できます(入境直後はデータ反映まで少し時間がかかる場合があります)。
ステップ3:アプリから申請
- ZA Bank: 「本土住民身分証」を選択して位置情報を許可し、電話番号認証を行います。身分証を撮影して顔認証を行い、住所、職業、口座開設目的、税務情報を入力後、ユーザー名とパスワードを設定します。
- BOCHK: 流れはほぼ同様で、出入境記録のPDFをアップロードするステップが追加されます。
すべての情報は完全に事実通りに記入してください。職業や年収、口座開設目的などをネットのテンプレートから適当に真似てはいけません。金融管理局が重点調査しているのは、まさに「疑わしい書類や虚偽申告」です。
ステップ4:審査結果の待機
BOCHKの受付・審査時間は月曜〜土曜の午前9時〜午後8時(祝日を除く)で、この時間帯に提出されて承認されれば、通常は即日で利用可能になります。開設当初の1日あたり送金限度額は1万香港ドルですが、銀行が3営業日以内に書類本審査を完了すると6万香港ドルに引き上げられます。
ステップ5:カードの受領と有効化
BOCHKのキャッシュカードは通常4営業日以内に郵送されます。受取時は一時凍結状態になっている場合があり、通常5営業日以内に有効化されます。初期状態では海外ATM引き出し限度額が「0」に設定されているため、本土のATMで現金を引き出したい場合は、モバイルバンキングから自身で限度額を設定する必要があります。
資金の入金と送金
香港への送金には「跨境支付通(クロスボーダー送金)」を利用できます。提携銀行のアプリから直接香港口座へリアルタイム送金が可能で、毎日7:00〜23:00に対応しています。この送金は、年間の個人為替購入枠(1人あたり年5万米ドル相当)を消費します。
逆方向(香港から本土へ)の送金には注意が必要です。跨境支付通の北向送金は公式には香港住民向けと定義されており、1人あたり1日1万香港ドル、年間20万香港ドルの上限が設定されています。
また、個人の外貨両替枠を海外の不動産購入、証券投資、投資信託、貯蓄型保険の購入に充てることは規制上禁止されています。為替購入申請時に選択した使途には法的責任が伴います。
投資機能は当面期待しないこと
BOCHKのアプリで本土身分証を使って開設した口座では、投資口座を直接開くことはできません(店頭窓口での手続きが必要です)。さらに5月の通達以降、新規の投資口座開設には資金源の書面証明が必須となっており、窓口で断られるケースも増えています。日常の預金、送金、ショッピング決済が目的であれば、投資口座が開けなくても実用上の問題はまったくありません。
やってはいけない注意点
- 仲介業者に書類を「包装(偽造・盛る)」させないこと: 不正書類で開設されたことが発覚した場合、口座は即時閉鎖され、その銀行およびグループ会社で将来にわたり二度と口座を開設できなくなります。
- 他人の資金洗浄や代理送金に口座を貸さないこと: 代理決済・代理受取は銀行のアンチマネーロンダリング(AML)システムが最も厳しく監視している行為です。
- 作ってそのまま放置しないこと: 低残高手数料が引かれたり、長期間の休眠口座として凍結される恐れがあります。使うあてがないなら無理に開設すべきではありません。
銀行の規約や審査基準は頻繁に改定されます。本記事は10月初旬時点の情報に基づいていますので、渡航前に各行の公式サイトを必ず再確認してください。


